ワーキングペーパー
ワーキングペーパーNo. 492 2025-07-14
民間病院をめぐる事業承継・M&Aの最新動向
・本リサーチの目的は、コロナ禍以降の病院経営の最新事情と民間病院の事業承継・M&A市場に生じつつある変化の兆候、それらに関係する政策上の課題の把握と対策の提言である。医業経営支援を生業とする専門家・コンサルタント10名を対象に半構造化インタビュー調査を実施。得た知見を基に、地域医療の持続可能性の確保の観点から考察を加え、将来に向けた政策提言を行った。
・近年、人件費と物件費が軒並み上昇、診療報酬の単価設定が追いついておらず病院経営の自助努力の限界が露呈。建築コストはさらに暴騰し、病院建替問題がM&Aの契機のひとつとなっている。さらに今後、新規融資の停滞とコロナ期の政策融資の返済開始が資金繰りを圧迫、倒産リスクを増大させかねない。
・上記のように病院経営は悪化、そこに後継者不足や相続問題も作用し、都市部を中心に第三者承継やM&Aの案件が増えている一方で、所在地や病院の形態によっては承継先を探すことが難しいケースもある。
・昨今の病院M&A市場において特に勢いがある買い手が医療系ファンドである。一方で、M&Aの仲介・コンサルティングを行う支援事業者の質にはバラツキがあり、悪質な業者が一部混在しており、実際に事件化した事案もある。
・聴取内容を踏まえ、以下の提言を行った。第一に、病院経営危機への対処には診療報酬の適切な価格設定が必要であり、政府・日銀の物価安定目標との連携を提案したい。別枠で、病院建替えのための補助金制度の拡充が必要である。第二に、M&A支援事業者の質の担保に向けて中小企業庁の登録制度の拡充、もしくは厚生労働省主導での医療界向け資格・免許制度の創設が求められる。第三に、地域に根差した承継とM&Aの支援策として、制度面では地域医療連携推進法人へのインセンティブ付与、資金面では地域密着型医療ファンドの推進、人材面では医療界主導の医業承継バンクの推進が望ましい。また、省庁の壁を越えて中小企業庁の各種支援策を医療界にも原則援用する制度とし、人員基準や行政手続き等の規制緩和も厭わず、地域医療の未来を考えたい。
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