ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 275 2013-03-04

緊急被ばく医療に関する検証
— 福島第一原発事故の教訓を踏まえた今後の体制・対応のあり方 —

 

  • 本研究は、福島第一原発事故の医療活動を検証したものである。 特に、緊急被ばく医療に係る準備体制と実際の対応から教訓を見出し、問題点と 今後のあり方について考察した。研究にあたり、各種事故調査報告書や一次対応 者による論文の文献的レビューを行うとともに、地元医師会等の協力を得て、一 次対応者に対してヒアリングを実施した。以下、概要である。
  • 我が国の緊急被ばく医療体制および人材育成は、原子力施設から一定の範囲の地 域(原子力施設立地県等および重点地域の市町村)における原子力災害対策の 下で発展してきた(8 頁)。
  • 福島第一原発事故では、先行した自然災害による被害と大規模な避難区域等指 定により、緊急被ばく医療体制の中核を担うオフサイトセンターならびに県内 の被ばく医療機関は、いずれも機能不全に陥った(12 頁)。
  • 機能不全に陥った体制は、次の6 つのステージを経て再構築された(15 頁)。
    • ステージ1:本部機能の立て直し 〜インテリジェンス機能の構築〜
    • ステージ2:県内の被ばく医療機関の実態 〜脆弱部分の把握〜
    • ステージ3:J ヴィレッジに初期被ばく医療機能設置 〜脆弱部分の補充〜
    • ステージ4:本部機能の強化 〜災害医療アドバイザーの配置〜
    • ステージ5:原発内の医療体制充実
      〜産業医学(予防)と救急医療(治療)の連携〜
    • ステージ6:受け入れ医療機関の拡充 〜地域医療との連携〜
  • 県は、国の防災指針に基づき、原子力災害対策に係る計画の作成は重点地域のみ に要請していた。重点地域外における市町村の対応から、あらかじめ定めた計画 の存否が実際の対応に与える影響が明らかとなった(37 頁)。
  • 国や県からの情報がない中、避難住民の放射線不安の矛先は、市町村や地域の医 師に向いた。これに対し、地域の医師は様々な対応を行った(40 頁)。
  • 緊急被ばく医療「体制」および「対応」の視点から、次のような問題が明らかと なった。
    1.緊急被ばく医療体制に関する問題点(56 頁)

     

    (1)オフサイトセンターに関する問題点(56 頁)
    • ①情報通信機器等の設備整備上の問題
    • ②指定に係る立地上の問題
    • ③意思決定過程におけるコミュニケーション上の問題
    (2)被ばく医療機関に関する問題点(64 頁)
    • ①指定に係る立地上の問題
    • ②被ばく医療機関のバックアップ体制の不十分さ
    • ③新たな被ばく医療拠点の設置に時間を要したこと

    2.緊急被ばく医療対応に関する問題点(68 頁)

    • ①被ばく医療機関以外の医療関係者の対応力不足
    • ②重点地域外の地域行政の対応力不足
  • 今後は、原子力施設立地県等および重点地域の市町村のみならず、すべての自治 体が一定の原子力災害対策を講じるとともに、災害医療体制を基礎とした緊急被 ばく医療の体制構築および対応を行える人材を育成する必要がある(74 頁)。

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