日医総研
日医総研 日医総研リサーチエッセイ
No.61
医療における「統合」の考察
—医療機関の垂直統合と取引費用理論,および世界の「統合」の研究—
矢澤真奈美
概要
 医療において「統合」への注目が集まっている.日本においても,今日の医療法人制度改革をめぐって,医療機関をより「統合」へと向かわせようとする動きが注目を集めている.社会保障制度改革国民会議の中で「例えばホールディングカンパニーの枠組みのような…」と書き込まれたことを受け,医療の規制改革を求める経済産業省や,内閣府に設置された規制改革系の会議,産業競争力会議での議論をも加熱させ,厚生労働省「医療法人の事業展開等に関する検討会」で医療機関同士を「統合」へと向かわせる新たな医療法人制度の具体的な検討がすすめられている.
 日本における医療機関同士の「統合」を求める主張は,以前から存在していた.その主張の1つに,アメリカのIHN(Integrated Healthcare Network)という垂直統合された医療組織体を日本にも実現すべきである,というものがある.IHNの主張によって,概念が抽象化され,それがあたかも日本の地域包括ケアの完成形のように描写し,理想像のような印象を植え付けている側面がある.
 さらにIHNの日本への導入は,「取引費用」という経済学の概念を用いて主張することによって専門性の壁をつくり,経済学を知らないものにとって,議論を分かりにくくしている.
 この主張は,IHNのような(日本には非現実的な),非常に広域かつ人口数百万人を対象とするような「巨大な統合医療組織体」を前提としながら,そのような巨大な医療組織体が日本でも必要であるとする.そしてそれは,医療における産業競争力の強化や,医療の国際展開が必要だとする主張と組み合わされることによって,経済産業省を中心とした医療の規制改革を求める側にとって,それを進めるための根拠として用いられている.
 しかしながら,本当にそのような統合は必要なのであろうか.医療から介護にいたるまでを包含する巨大な医療法人が,必ずしも,そして本当に必要なのであろうか.冷静な視点で判断する必要がある.
 本稿では,そのような問題意識のもとで,IHN議論を含む,「医療における統合(integration)」をテーマとして現時点での考察を,まとめることを試みた.
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